ストロベリームーン
「今度世那ちゃんの写真撮らしてくれない?」
「え?写真?」
「前から世那ちゃんってフォトジェニックだと思ってたんだ」
断る理由などなかった。
小春はその場で日取りを決めると詳しい場所は連絡するからと行ってしまった。
店までの短い距離を世那はスッキップしたい気分になった。
戻ると隼人が主人を待っていた飼い犬のように嬉しそうにした。
孝哉さんが早速注意してくれたのか、おあずけされたようにしっぽを振るだけで話しかけこない。
世那は隼人をよしよしとしてあげたくなった。
さっきまでなんであんなにイライラしていたんだろう。
店以外の場所で小春と会う。
小春との関係が一気に進む感じがする。
進むってどこに向かって進むんだ。
コーヒー専門店のただのバイトと客からもうちょっと親しくなるということだ。
その夜から世那の妄想も先に進んだ。
小春が約束の場所に指定したのは小春の家だった。
いきなり2人きりで密室。
もしかすると妄想が妄想でなくなるかも知れない。
確かに世那は妄想を楽しんだ。
でもそれと妄想が現実になってほしいと思うのは別だ。
現実になるということは道を踏み外してしまうということになる。
それはヤバイ、ヤバすぎる。
やはりモデルになるのは断ろうか?
そもそもなんで写真なんか撮るんだ。
小春はライターではないか。
本当に迫られたらどうしよう。
スマホを握りしめた手にじわりと汗をかく。
何百回と検索した女同士の世界。
情報が溢れかえって頭は混乱、逆にどうしたらいいのか分からなくなってしまった。
もう2丁目に行くしかないかも知れない。
ネットで検索している間も頻繁に出てきた新宿2丁目。