ストロベリームーン
それまで世那にとって新宿2丁目はゲイの男たちが闊歩する街、またはダメ男に振り回され半分男性不信になったような女たちが通うおかまバー——この場合はゲイバーではなくおかまがバーだ——がひしめく場所としての認識だった。
自分には関係のない世界だった。
一生関わり合うことはないだろうと。
それがまさか行ってみようかと思うようになるとは。
男たちの場所があるのだから女たちの場所もあるのは当たり前なのだが、それを知った時、「へえ、こんなところもあるんだ」と意外だった。
世那が目指すのはレズビアンバーだ。
おなべバーではない。
——おなべバーという存在を今回初めて知った——そこで本物——言葉は変だが——のレズビアンの女たちと小春が似ているか確かめるのだ。
家を出るとき傘を持たずに出たら、新宿の街は雨だった。
コンビニで傘を買う。
透明の傘に埋もれる1本の緑色の傘を引っ張り出してレジに持っていった。
透明は顔が透けて見える。
目指す店は決めていた。
調べると思った以上に女たちの集まるバーはあって、その中から1番敷居が低そうな店を選んだ。
仲通りを入った辺りから歩いている人の雰囲気が違う気がする。
世那はわざときょろきょろと周りを見回しながら歩いた。
わたしは今日初めてここに来たんだからね。
わたしは違うんだからね。
ちょっと用事があって来ただけで、わたしは違うんだから。
声に出して言う代わりに態度でそれを表そうとする。
目的の店の前で決心するのに30分かかった。
黒い扉には『男性お断り』と書いた紙が貼ってある。
思い切って扉を開けて中に入ると狭い店内には人がごった返していた。