ストロベリームーン

「この子なんてさ、付き合い始めてアレコレしてんのに自分は違う今だけ、とか往生際悪いことずっと言ってたんだよ」

「今じゃどっぷりだけどねーっ」

 指差された子はあははと笑う。

 自分は違う。

 その言葉に世那は反応する。

「物心ついた時から自分がビアンだって自覚する人もいるけど、だいたいみんなそうじゃなくてさ、でも女の子が気になってるってとこでもうそうじゃん。本当にのんけだったら気にならないもん」

 世那はストローの端を何度も噛んだ。

 今日2丁目に来た本当の理由は小春がどうとかなんかじゃないんだ。

 小春を確かめるのではなく自分を確かめたかったんだ。

 包み隠していた自分の気持ちを目の前の子たちにあっけなく剥がされる。

 それでもまだ抵抗感はあった。

 まだ自分は違うという気持ちがぬぐいきれない。

 この気持ちは小春だけであるように思えてならない。

 今まで1度も女の子が気になったことなんてないし、これから先もないと思う。

 小春以外は。

「でもやっぱりわたしの場合はその人限定だと思う」

 思い切って世那は言ってみた。

 3人は全く動じなかった。

 それどころか彼女らは嬉しそうな顔をした。

「へえ、そんなにその人のことが好きなんだ」

「マジ恋してんねーっ」

「いやん、羨まぴぃ」





 店を出てすぐに傘を忘れてきたことに気づいたが、取りには戻らなかった。

 雨は止んでいた。

 仲通りを出てひたすら駅に向かって歩く。

 何も考えられなかった。

 今は何も考えたくないと思った。

 自分は小春が好きなんだ。

 何を今さらと思ったが、どこかに逃げ道を探していた。

 ただの憧れとか、一過性の疑似恋愛とか、気の迷いとか。

 好き。

 なんてシンプルな言葉。

 胸の間に水溜りができたみたいな感覚。




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