ストロベリームーン
世那の過ち
千代田線の千田木駅にある小春の家は木造二階立ての一軒家だった。
表札に『清水』と書いてあり実家なのかと思ったら、1階部分だけを借りての1人暮らしだという。
建物の古い外観に驚いたが中に入るとなんとも洒落ていた。
いわゆる今流行りのDIY可能な物件でモダンとレトロがうまい具合に調和されている。
聞けば小春がほとんど1人でやったのだという。
自分の素っ気ないワンルームは恥ずかしくて小春には絶対に見せられないと思った。
小春が持っていたのは本格的な一眼レフだった。
「本当はフォトグラファーになりたかったんだ」
小春はカメラを構えると世那の方を向いた。
「小春さん、夢は諦めちゃったんですか?」
緊張で顔が少しこわばる。
「ねぇ、敬語は止めない?今日は世那ちゃんがお客さまなんだからさ。それに小春さんじゃなくて小春でいいよ」
小春はレンズを覗き込む。
そんなの無理。
ため口だけならまだしも呼び捨てになんかできない。
それにそっちだって世那をちゃん付けで呼ぶ。
それを言うと「そっか、だったらわたしも世那って呼ぶ」そう言われるとそれ以上歯向かえない。
「もうプロになろうとは思わないの?」
とりあえず敬語は止めたが、さすがに呼び捨てはいきなりできない。
「プロって言えば今もプロみたいなもんなんだけどね、記事の写真はわたしが自分で撮ってるから。でも純粋に写真だけが撮りたかったんだ。特に人物。今の会社には最初フォトグラファーで入ったんだけど、ある取材でライターが急に来れなくなっちゃって、急ぎのやつだったからとりあえずわたしが話を聞いてメモを取ったら文章もいけるじゃん、みたいになってさ。両方できる人材は会社にとっても都合がいいみたいでそれ以来両方するようになったんだ。でもだったら給料も倍にししろってね」