ストロベリームーン


 見切りをつけるのはリョウでなければならなかった。

 プライドを傷つけられたリョウは璃々子を罵倒した。

 そんなリョウが腹いせにトイレの壁に璃々子の電話番号を書くというのは十分あり得ることだった。

 リョウはそんなことをしそうな男だった。

 普通だったらここでリョウへの怒りをぶちまけてもいいのかも知れないが璃々子にはもはや新しい出会いの方が大切だった。

「もっとリョウに怒るべきなのかなぁ」

 お前は馬鹿だな。

 リョウの声が聞こえてくるようだった。

「別にいいんじゃないですか、そういう前向きなところ、璃々子さんらしくていいですよ。本当に怒らなければいけない時にだけ怒ればいいんです」

 さすが孝哉だ、いいことを言う。

 その言葉でビールがいっそう美味しく感じられる。

「それでその新しい彼はなにしてる人なんですか?」

「知らない」

「歳は?」

「知らないけど、若い。まだ会ってないの、電話とラインだけ」

「じゃあまだ出会ってないじゃないですか」

 璃々子は嬉しそうにフフンと鼻を鳴らした。

「声がめちゃくちゃイケメンなの」

 璃々子はしばらく手元でスマホをいじりグラスに残ったビールを一気飲みすると席を立った。

 3本分のビールの代金をカウンターに置く。

「さて、これから一発ベリッーってやるか」

 璃々子は腕をひょひょいと動かすと「またね、孝哉っち」カランとドアベルを鳴らして店を出ていった。




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