ストロベリームーン
「いい男ねぇ、あんまり考えたことないな。いい男やいい女である必要ってなくない?誰に対していいのかって感じだし、じゃあ聞くけど駄目な男や女って駄目なの?」
「だ、駄目なものは駄目」
「なんで?」
「駄目イコールバツ、あ、当たり前でしょ」
「ふーん」
なんとなくその話題はそれで終わってしまった。
肝心の答えはぐらかされてしまったかたちになる。
沈黙が流れる。
シャッターを切る音だけが響く。
「ねぇ、ヌード撮ってもいい?」
小春がカメラ越しにさらりと言った。
「え?」
聞き違いかと思ったが小春はわざわざ「ハ・ダ・カ」と強調した。
「そ、それはっ」
「女同士だから恥ずかしくないでしょ」
確かに普段は恥ずかしくない。
でも相手が小春となれば別だ。
何度も妄想の中で小春も世那も裸になったことはあるが。
待てよ、こ、これはもしや妄想が現実になったということか?
でも妄想の中での自分はこんなにぽっこりお腹は出てないし、子どもっぽい下着もつけてない。
「い、いやわたしすっごいスタイル悪いんだ。胸よりお腹の方が出てるみたいな変な体してんの。わたしの裸なんて汚いから止めた方がいいよ」
「大丈夫、世那が思ってるようなヌードじゃないから。裸のイメージが欲しいだけなんだ」
小春はカメラを置くと奥にある部屋に入って行った。
しばらくしてピクチャーフレームに入った写真を持って戻って来た。
「こういう感じ」
全体に淡くぼんやりとした写真だった。
白い花の中で女性がうずくまっている。
女性の体は周りの光る白さに溶けるようにシルエットが曖昧だった。
女性を包む白い花の心臓がその女性のようでもあったし、女性の心臓がその白い花のようにも見える。
「わ、キレイ」
確かに女性は裸だったが、これをヌード写真と呼ぶにはふさわしくないほどその写真は幻想的だった。