ストロベリームーン
カメラから顔を覗かせる小春と目が合う。
「ねぇ、2人で撮ろうか」
「えっ?ふ、ふたりって」
小春は慣れた手つきで三脚にカメラを装着すると世那の方にやってきた。
俯く世那の横に小春は座る。
「ねぇ、こっち向いて」
世那が顔を上げるとシャッターが鳴った。
小春は体をわずかに世那の方に傾ける。
またシャッターが鳴る。
小春は小さくポーズを変えながらその度に左手に握ったリモコンを押す。
小春と世那の肌が触れる。
静電気がおきたようにピリッとして触れられた点は生命を吹き込まれたように脈打ち始める。
妄想では想像しきれなかった感覚だった。
「ちょ、ちょっと」
小春は世那の後ろに回ると後ろから世那を抱きしめた。
「きっといい写真が撮れるよ」
小春の左手に力が入る。
乾いたシャッター音が鳴った。
地下鉄が動きだした時、世那は深く長い息を吐いた。
小春の弟がやって来なかったら、あのままどうなってしまっただろう。
小春は世那に触れるだけではなく、背中や肩に頬に、軽く唇を押し当ててきた。
刻むようなシャッター音がなければ、あれは愛撫以外のなにものでもない。
小春の体温、小春の柔らかい唇の感覚、ときどき世那の肌に触れる小春の髪の質感、そして小春の匂い、妄想は現実を想像するものではなく、妄想は妄想なのだと世那は知った。
映画館のブザーのような音と玄関のドアを揺する音で2人の時間は終わった。
じゃぼん玉が弾けるように。
小春が玄関に行っている間に世那はバックの中から引ったくるように自分の下着を取り出し、そして丸めた苺のパンツで自分が座っていたところを拭いた。
今もさっきのことを思い出しただけで、苺のパンツが熱くて冷たい。
弟の登場に焦りまくった世那とは対照的に小春は冷静そのものだった。