ストロベリームーン
結局2人は無難に渋谷に向かった。
街は雨だった。
傘を持っていない世那は隼人の傘に入れてもらう。
そろそろ梅雨がやってくるのかも知れない。
さっきまでいた小春の家でのことがずっと昔のことのように遠くに感じた。
店を迷いに迷って結局どこにでもある居酒屋に入った。
堂々とアルコールが飲める歳になった隼人に世那は半ば無理やりビールを勧めた。
飲み慣れていないのか元々の体質なのか、隼人はジョッキの3分の1ほどで顔を真っ赤にした。
あまり酔わせ過ぎてもいけないと、ほどほどのところで店を出て、世那はわざとホテル街の方へ歩いた。
隼人を誘うのは簡単だった。
世那の大学の男の子たちはこういう事に興味がないのも多いが、そこはさすが体育大だ。
これぞ健全な若い男子というものだ。
少子化の原因は仕事ばかりして子どもを産まなくなった女たちのせいのように言われているが、半分は性欲が落ちた男たちにも原因はあると思う。
世那の周りでもいつもやりたがってるのは女の子たちで、男の子たちが集まって熱心に何を話しているのかといえば、大抵それはゲームの話だった。
隼人が見かけ倒しの若い男でなくて良かったと、密かに隼人を見直した。
事が終わってホテルでシャワーを浴びている時、体のどこかしらから隼人の匂いがした。
悪い感覚ではなかった。
隼人のことをこのまま好きになれるかも知れないと思った。
隼人の匂いは夜になっても残っていた。
オスという本来世那が持っていない異質な粒子を微量でも嗅ぎ分けてしまうのかも知れない。
その代わり同じ粒子でできた小春の匂いはすっかり消えていた。
同化して吸収されてしまったのか、それとも蒸発してしまったのか。
隼人との最中、小春を思い出すことはなかった。