ストロベリームーン


「お店のお客さんにも食事に連れていってもらったりもするんでしょ。そういう時はどんな店に行くの?やっぱり焼肉?」

 蓮は赤いドレッシングのかかったサラダを璃々子の皿に取り分ける。

「イタリアンとか小洒落た店が多いかな。女の人が好きそうな」

「ふーん」

 璃々子は平静を装い密かに嬉しがる。

 やっぱり自分は蓮にとって特別な存在なんだ。

 自分の好きなものを素直に言えるというのは心を許す相手だからこそできることだ。

「あ、でも僕ホストのバイト辞めたんで」

「えっ?いつ?」

 蓮はわずかに首をかしげる。

「半月くらい前かな?」

「なんで?」

「なんでって、思ったより金よくなかったし、毎日出て欲しいとか言われたんで」

 蓮はサラダを頬張る。

「そっかぁ、辞めたんだホスト」

 璃々子は大げさに頷いた。

 今度は喜びが隠しきれなかった。

 蓮がホストのバイトをしていることを決して快く思ってはいなかったが、蓮よりいくつも年上の自分は理解ある大人の女でなければいけないと強く思っていた。

 本当はずっとホストのバイトは辞めて欲しかった。

 でもそんなことは言えなかった。

 蓮の店に行った時、客の多くがまだ20代そこそこの若い女の子たちだったのに驚いた。

 蓮に聞くと風俗やホステスの子もいるが昼間の仕事の子も多いと言う。

 若い女の子の客と話す蓮は仕事とはいえ楽しそうに見えた。

「ねぇ今度蓮くんのライブ見に行ってみたい」

 蓮のライブにはまだ行ったことがなかった。

 きっと若い女の子が多いに違いない。

 ステージに立って歌う蓮はさそがしカッコいいだろう。

 ただでさえバンドマンはモテる。

 蓮はその中でも花形のヴォーカルなのだ。

 そして蓮のこの容姿。

 女の子たちの黄色い歓声を浴びながらステージで歌う蓮が目に浮かんだ。


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