ストロベリームーン
次は中が冷たい生焼けで、肉は蓮が戻ってくるまで待つことにした。
サラダやキムチをつまみながら蓮を待つが待てど暮らせど蓮は戻ってこない。
まさか帰ってしまったなどということはあるまい。
振り返ってギターケースを確認する。
これを置いたまま蓮が帰るはずはない。
蓮の飲みかけのウーロンハイに小さく丸くなった氷が浮いている。
グラスは汗をかき下に敷いたコースターを濡らしていた。
よそった石焼ビビンバがすっかり冷めてしまったとき、ようやく蓮が戻ってきた。
「ごめん、璃々子」
荒い息を吐きながら璃々子の隣に戻った蓮からは外気の匂いがした。
額にうっすら汗をかいている。
璃々子は電話が何だったのか尋ねたかったが、
「そういえば璃々子、新しく雇ったバイトの女の子どう?」
蓮が聞かないで欲しそうだったのでやめておいた。
「志保ちゃん?うん、いい子だよ。先月茨城から出てきたんだって。ねぇそれよりもっとお肉焼いて蓮くん」
どうして蓮くんってわたしのこと好きになってくれたの?
同じ質問はできなかった。
好きが多くなると言いたいことが言えなくなる。
相手を失うのが怖くなるから。
どんどん自分らしくなくなっていって、どうしてこんな自分を相手は好きなのだろうと不安ばかりが増える。
蓮が肉を焼く姿を璃々子は見つめた。
「僕はね」
蓮はトングで肉を炙りながら言った。
「璃々子のことが好きだよ」
まるで、もう焼けたかな、って言うようなあっさりとした言い方だった。
璃々子の目も見ていない。
「うん」
それでも璃々子には充分だった。
目の前の肉を焼く火で頬が火照った。