ストロベリームーン
璃々子がそれに気づいたのは、焼肉のあと駅で蓮を見送り、1人で家に帰って来た時だった。
棚の上に置いていた封筒がなくなっていた。
蓮と一緒に家を出たその時はあったと思う。
封筒には店の売り上げ金50万が入っていた。
部屋中這いずり回って封筒を探した。
間違って捨ててしまったのかも知れないと、マンションのごみ置場まで漁った。
封筒はどこにもなかった。
忽然と消えていた。
途方に暮れた璃々子はしばらく床に座り込んだまま呆然とする。
「泥棒に入られたんだ。警察に連絡しないと」
110番をしてもよかったが、璃々子は歩いて近くの交番に行くことにした。
小さな交番には若い警官が1人机について書き物をしている。
「あの、泥棒に入られたんですけど」
大声で訴えたい気分なのに 『お財布落としたんですけど』みたいに控えめになる。
顔を上げた若い警官に璃々子は事情を話す。
「家の鍵は壊されていましたか?」
警官が璃々子に尋ねる。
「いいえ」
「部屋は荒らされていましたか?」
璃々子は首を横に振る。
警官は言った。
「それは身内の犯行ですね」
「え?」
一瞬頭が真っ白になる。
「それは空き巣ではなく、あなたの家の鍵を持っていて、家のことをよく知っている身内の犯行です」
「そんなことする人、わたしの周りにはいません」
半分泣きそうになる。
性根が優しいのだろう、若い警官は顔に同情の色を浮かべた。
「なので被害届けを出すとその人は逮捕されてしまいます。こう言った場合はよく考えた方がいいですよ」
璃々子は頭が混乱してその場に立ち尽くす。
若い警官は黙って璃々子の返事を待ってくれた。
「誰が取ったんでしょう?」
璃々子の問いに警官は困った顔をしたが、璃々子が店をやっていることを知ると、「従業員の可能性は高いですよ」と言った。