ストロベリームーン
璃々子の頭に新しく入ったバイトの子の顔が浮かぶ。
田舎臭さが残るその子はとてもそんなことをするようには見えない。
「どうやってその子はわたしの家に入ったんでしょう?鍵も持っていないのに」
「あなたの家の鍵をあなた以外で持っている人はいますか?」
璃々子は口を開きかけたが、何も言わずただ頷いた。
交番を出ると自然に足がアサイラムコーヒーへと向いた。
まだギリギリ開いている時間だった。
璃々子の家の鍵を持っている人間が1人いた。
蓮だ。
焼肉をたらふく食べたあとのビールは苦いだけだった。
「それで届けは出したんですか?」
腕組みをした孝哉の眉間には短い縦じわがうっすらできている。
その横に孝哉より怖い顔をした世那が立っている。
「まだ。もしかしたらお金戻ってくるかもしれないし」
「戻ってくるはずないですよ。そりゃ璃々子さんが彼を信じたい気持ちは分かりますけど」
孝哉が「世那ちゃん」と小声で戒める。
「蓮くんはそんなことしない。お金はないけどそんなことする子じゃない。わたしには分かるの」
世那は自分のスマホを取り出しちょちょいといじると璃々子の顔の前に突き出した。
「これ見てください」
璃々子の目の奥が脈打ったように揺れた。
「あいつ、女いますよ。璃々子さんにはお金目当てで近づいているだけです。いい加減目を覚ましてください」
「お金目当てだなんて、わたしなんか大して持っていないし、これどこ?いつ撮ったの?」
「お金をたいして持ってなくても関係ないですよ。相手から絞り取るだけ絞り取ったらポイです。先週の新宿です」
孝哉も世那のスマホを覗きこむ。
「若くて可愛いなぁ」
世那と璃々子に睨まれて咳払いをした。