ストロベリームーン
「璃々子さん、考えても見てください。璃々子さんと彼って歳いくつ離れてると思ってるんですか。彼が璃々子さんと付き合う理由、他に何があるって言うんですか?」
突然璃々子はカウンターに突っ伏して大声で泣き出した。
「分かってる。でも信じたいの、蓮くんを信じたいの」
世那が何か言おうとするのを孝哉が制する。
おいおいと泣く璃々子を見ていると、世那はどんどん自分が冷めていくのが分かった。
この人は本当におめでたい人だな。
こういう純粋ぶった人って、自分はいいかも知れないけど周りは迷惑なんだよね。
年甲斐もなく若い男と付き合った気になって浮かれて、終いには大金盗まれて、大泣きして、それでも相手を信じるとか、ありえないんですけど。
「まぁ、璃々子さんの気持ち分からなくもないよな」
まさかの孝哉の発言に世那の鼻がひくつく。
「わたしは全然分かりませんけど」
「それは世那ちゃんはまだ自分が1番大切だからだよ。誰かを好きになるっていうのはね、相手を信じるってことなんだよ。たとえそれで自分が犠牲になるとしてもさ」
「言ってる意味がよく分かりません」
「まぁ、要するに恋愛において得するか損するかを考えているうちはそれは恋愛じゃないってことさ」
孝哉はレモン水にミントを入れたグラスを璃々子の前に置いた。
「璃々子さん、肉食べたあとはこれ飲むとスッキリしますよ」
顔を上げた璃々子の目の下にはマスカラの繊維がいくつも付いていた。
「鍵はすぐに返してもらうんですよね」
本来ならすぐに警察に突き出すべきだが、100歩譲って世那は訊いた。
「そんなことして、もし蓮くんじゃなかったらどうするの?嫌われちゃうかもしれない」
世那は絶句した。
ぐらぐらと世那の頭の中で熱湯が煮えたぎる。
「どー考えたって彼でしょ。だから彼にはちゃんと若い彼女がいて」