ストロベリームーン

「1%でも蓮くんを信じたいの。蓮くんは本当にわたしのことを好きかもしれない。蓮くんがお金を取ったんじゃないかもしれない」

 そっか、騙される人間ってこういう心理なんだな。

 璃々子の馬鹿さ加減に怒りを通り越し、冷静さが戻ってくる。

 もう少しで煮えたぎって溢れそうだった怒りが30℃ぐらいまで温度を下げる。

 DV被害を受ける女も男を庇ったり、殴られるのは自分に非があると本気で思っている場合があると言う。

 で、本当の彼は優しい男で、いつか本当の彼に戻ってくれると信じているのだ。

 この信じるって本当に厄介だ。

 孝哉はさっきあんな風に言ったが、それは信じる要素と疑う要素が半々ぐらいの時の話で、璃々子みたいに99%黒で1%のグレーを白だと信じるのとは訳が違う。

 よくこんな馬鹿で今まで生きて来れたなと、目の前の璃々子を世那はしみじみと見た。

 自分は絶対こんな風にならないようにしよう。

 って、なるはずもないか。

 隼人との間はあれから順調で、毎日のように連絡がくる。

 今日はテーピング理論の試験だったはずだ。

 そんなことまで知っている。

 小春はあれからまだ1度も会ってないし、小春から連絡が来ることもない。

 世那がシフトで入っていない時に何度か店に来たと、これも隼人から聞いた。

 今にして思えば、小春への気持ちは勘違いだったのだと思う。

 こうやって隼人と関係を持ち一応付き合うような形になると、それがよく分かる。

 たぶん人には誰にでも同性愛的な要素があるのだ。

 それだけだ。自分はやっぱり普通なんだ。

 小春もきっとそうだ。

 個性的な感じだから——裸族らしいし——ちょっと疑ってはみたが、もしレズビアンだったらとっくにカミングアウトするタイプのはずだ。

 
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