ストロベリームーン
「いらっしゃいませ」
隼人が素早く大きな声を出したので、世那は声をかけ損ねる。
小春は店内をぐるりと見回した。
璃々子に目を止め、次に隼人、小春の視線は世那を素通りした。
小春はテーブル席ではなく璃々子から1つ席を空けてカウンターに座った。
璃々子と小春は軽く会釈をし合う。
世那の知る限り店で2人を揃って見るのは初めてだった。
「孝哉さんは?」
小春は隼人に訊ねる。
答えたのは璃々子だった。
「今日高熱を出してお休みだそうですよ」
「それは大変」
「なんで、今日は難しいやつ作れないんすけど」と隼人。
小春はにこりと笑った。
「大丈夫」
小春は日替わりの<今日のコーヒー>をオーダーした。
璃々子と小春はすぐに打ち解けた。
調子のいい璃々子は分かるが小春がこんなに社交的だとは知らなかった。
今度一緒に飲もうなど言い合っている。
話題は璃々子の仕事の話になる。
璃々子が脱毛サロンをやっているのは知っていたがそれ以上の詳しいことは誰も知らない。
「うちの脱毛は脱毛でもブラジリアンワックス専門なの」
「え?うっそ、わたしやりたい」と小春。
「なんですか?そのブラジリアンワックスって」
よせばいいのに隼人が2人の会話に入っていく。
説明を聞いた隼人は「へぇ、そんなのあるんですね」と以外にも普通の反応をした。
小春がブラジリアンワックス。
小春の裸を見たことがあるだけにリアルにそれは想像できた。
あの時は直視できなくて目を逸らしがちだったが、小春のあそこの毛量はそんなに多くなかったと思う。
それよりも自分の方がよっぽどぼさぼさで生えている範囲も広くて剛毛だ。
ときどき下着を突き破って数本飛び出してる時もある。
そんな世那の頭の中を覗いたように璃々子が言った。