ストロベリームーン
孝哉のこの部屋は寂しすぎる。
ふと小春の部屋を思い出す。
小春の部屋は本当に素敵だった。
自分の価値観で選んだ家具や小物は1つ1つが個性的で元気があった。
おかゆを食べ終わると孝哉は渋い顔をした。
「どうかしました?気分悪いんですか?」
「うん、ちょっと」
孝哉は体を折り曲げてトイレに入ると今食べたばかりのおかゆを吐き出した。
後ろで世那はただおろおろする。
やっぱり無理に上がり込んでおかゆなど食べさせたからだ。
ゆっくりベッドで横になっていないといけなかったのだ。
世那は孝哉をトイレに残し寝室を思われる部屋を探して扉を開けて回った。
2回間違ってクローゼットを開け、3つめの扉を開ける。
心臓が止まりそうになった。
「世那ちゃん」
トイレで世那を呼ぶ孝哉の声が聞こえた。
慌てて世那は寝室の扉を閉めトイレに走った。
孝哉はトイレットペーパーで口をぬぐいながら、「ごめん、ちょっと横になるから帰ってくれないかな」目には涙が溜まっている。
世那は小さく2度頭を縦に振ると床に置いてある自分のバックを拾い上げ玄関へ急いだ。
「悪いね」
後ろから世那について来る孝哉が呟く。
こちらこそ上がり込んですみません、とかゆっくり休んでくださいね、とかセリフはあったがどれ1つとして世那は吐くゆとりがなかった。
玄関でかがんで靴を履く世那の背中に孝哉が言った。
「部屋見た?」
世那の動きが一瞬止まる。
「なにがですか?」
世那はうつむいたまま、まだ靴を履いている振りをする。
指先がわずかに震える。
「いや、ならいいんだけど」
「じゃ、お大事になさってください。お邪魔しました」
世那は勢いよく玄関を飛び出した。
後ろで、ありがとう世那ちゃん、と孝哉の声が聞こえたが振り返らなかった。