ストロベリームーン
慌てて世那は後ろを振り返るが誰もいない。
「どっかで会ったことあったっけ?」
世那の目の前に立つ蓮は微妙な笑顔を浮かべている。
こいつナンパだ。
世那は一瞬迷ったが知らないふりをすることにした。
何か蓮のしっぽが掴めるかもしれない。
「さぁ、お会いするのは初めてだと思いますけど」
「そう、こっちじっと見てたからどっかで会ったことがあるのかと思って」
蓮は世那の横に腰掛ける。
ほら来た。
「こんな時間にここでなにしてるんですか?」
平日の午前中にこんな公園でぶらぶらしているのだ。
ろくでもない。
まさかまた璃々子のところに盗みに入ろうとしているのではあるまい。
「バイト探し。この前やってたバイト辞めちゃってさ」
バイトしなくても璃々子の50万があるから当分は大丈夫だろうに。
それともバイトとは空き巣のことか?
「定職にはつかないんですか?」
蓮はちょっと驚いた顔をして世那を見た。
「君、学校の先生とか親が言うようなこと言うね」
「そうですか?一般常識だと思いますけど」
「俺、バンドやってんだ」
今俺って言った。
璃々子さんの前では僕って言ってたのに。
「バンドって趣味でしょ」
蓮は急にニヤニヤし出した。
変な奴だ。
やっぱり全然信用できない。
「そうだよ、趣味だよ。本気でやるはずないじゃん、あんな金にならないこと」
璃々子は蓮の声をしきりに褒めていた。
蓮くんだったら必ず成功できると自分のことのように息巻いていた。
世那は璃々子のことを決して好きではなかったが、目の前の蓮が無性に憎たらしくなってくる。
「じゃあなんでやってるんですか?」
「女の子にモテるから」
蓮は軽薄そうに笑った。
ほら、やっぱり!
「バンドなんかやらなくてもお兄さん格好いいからモテるでしょう。お兄さんに貢いでくれる歳上の女の人とかいたりして」