ストロベリームーン
「準備できるまでタバコでも吸って待ってて」
「タバコやめたんだ」
「え?いつから?」
「さっき」
「なんで?」
蓮は冷蔵庫の方へ歩いていく。
「そういえばさ、さっき近くの公園で大学生くらいの女の子と話してたんだけどさ、音楽なんて趣味でしょって言われちゃった」
冷蔵庫からオレンジジュースの紙パックを取り出す。
「あ、それもう全部飲んじゃって、新しいの買って来たから。そんなこと言われたんだ」
「まぁそれが一般的な意見だけどね、璃々子何飲む?ビール?」
「あ、わたしもオレンジジュースでいい」
璃々子は蓮からジュースの紙パックを受け取りテーブルに置くと蓮の手を握った。
「わたしは蓮くん応援してるからね、わたしは蓮くんがメジャーデビューするの待ってるからね」
真剣な顔をして蓮を見上げる。
「ありがとう璃々子、璃々子だけだよ、そう言ってくれるの。タバコは声に悪いからやめたんだ。やるからには本気にならないとと思ってさ」
蓮は璃々子に軽くキスをする。
「わたしも一緒に禁煙する」
「いいよ璃々子は吸ってて」
「だって目の前で吸われると吸いたくなるでしょ」
蓮は困ったようなでも嬉しそうな顔をした。
「璃々子は本当に優しいね」
蓮はもう一度璃々子にキスをした。
「さ、食べよ食べよ。いっぱい買ってきたから蓮くんたくさん食べてね」
4人がけのテーブルに2人は並んで座る。
カツサンドを頬張る蓮を璃々子は眺める。
「わたし幸せだな、とっても幸せ」
「どうしたの?急に」
蓮は笑った。
璃々子も笑う。
なんでもない普通の日に特別なんでもない食事を大切な人と取る。
璃々子にはそれが1番の贅沢に思えた。
「蓮くんはわたしと一緒に居て幸せ?」
「当たり前だよ」
「このままず〜と一緒にいようね」
「そうだね」
蓮はカツサンドを頬張ったまま答えた。
蓮と連絡がつかなくなったのはそれからすぐのことだった。