ストロベリームーン
世那の決意
まだ咳き込む孝哉に今日何十回目かの「大丈夫ですか?」の声をかける。
忘れようとは誓ったが、孝哉のあの部屋のことが気になって今朝顔を合わせた時は孝哉の顔がまともに見ることができなかった。
が、ランチタイムに突入するとそんなことを気にしているどころじゃなくなって、今ではすっかり普通に接することができるようになっていた。
ランチタイムが終わると客の入りを見計らって交代で食事を取る。
孝哉は猫祭りコーヒー用の卵でたまご粥を作って食べていた。
「孝哉さん、わたしに猫祭りコーヒー、じゃなくてカフェドベルジクの作り方教えてもらえませんか?今日じゃなくてもいいです。元気になってからでいいですから」
孝哉はそうだねと頷いた。
「隼人もこの前同じこと言ってたし、これ食べ終わったら教えてあげるよ」
孝哉は食べている途中で席を立つとシンクで手を洗った。
カフェドベルジクのレシピ。
深入りコーヒー150cc、卵白半個分のメレンゲ、ホイップクリーム大さじ2、バニラアイス大さじ山盛り2。
グラスにアイス、メレンゲの順に入れゆっくりコーヒーを注ぐ。
最後にホイップクリームを混ぜて完成。
店ではアイスはレディボーデンを使う。
ハーゲンダッツを神だと思っている世那はここだけがこのレシピの中で気になるところだ。
初めて飲む自分で作った猫祭りコーヒーは想像以上に甘かった。
「世界では甘いコーヒーを飲む人が多いんだよね。日本人ぐらいじゃないかな、コーヒーを甘くせずに飲むのなんて」
世那は上唇についたホイップクリームを舌先で舐め取った。
「孝哉さん、早く元気になってくださいね」
「もう全然大丈夫だよ」
孝哉はガッツポーズをとる。
世那は口元だけで笑うと猫祭りコーヒーを口に含んだ。