ストロベリームーン
「女2人は綺麗だからいいけど、男は汚いよ」
「で、どうせその女2人の中に入りたいって思ってるんでしょ」
隼人はそれを想像したのか、口元を緩ませたが、すぐに真顔に戻った。
「でもさ、今は時代がホモとかレズを認める方向だけどさ、世界中の人がそんなふうになったら人類が滅びて困るよな」
「誰も世界中の人がそうなれとは言ってないじゃない。セクシャルマイノリティを認めろと言ってるだけで。なんでそんな飛躍すんの。自然体になれば、数にバランスが生まれて1つの性愛に偏るなんてことはなくなる。みんな同じであることの方が不自然なんだよね。同じとか1つの真実とかにこだわってるから、差別や戦争が起こるんだよ。そんな馬鹿な人類だったら滅びろって感じ」
隼人はキョトンとした顔で世那を見ている。
つい感情的になってしまった。
「セ、セクシャルなんとかってなに?」
世那は鼻でため息をつく。
きっと隼人は今自分が言ったことの半分も理解してないだろう。
「もういい」
世那は皿に顔を寄せて中華麺を無理やり口の中に押し込んだ。
「なんか怒ってんの?」
数本の麺を口から出したまま世那は顔を横に振る。
隼人に罪はない。
これが普通の対応だ。
普通?自分も普通のはずじゃないのか。
なんでこんなにイライラするんだ。
「なぁ、このあと世那ちゃんの家に行っていいよな」
隼人が身を乗り出して世那の耳元で囁いた。
カエルのように両足を開いた自分の姿が浮かんだ。
オエッ。
「わー!世那ちゃん」
口の中の中華麺をテーブルの上にぶちまけた。
隼人は慌てて立ち上がる。
近くにいた客たちが世那たちを見た。
ダスターを持ってやって来たホールスタッフの女の子が、大丈夫ですか?と声をかけ世那の撒き散らした汚物を片付け始める。
頭を垂れ俯いた世那はボソリと呟いた。