ストロベリームーン
「わたしずっと隼人くんを利用してたんだ。小春を忘れるために隼人くんと付き合ったの。隼人くんの言うように男と寝たら忘れられるかもと思ったんだ。最初から隼人くんのこと別に好きでもなんでもなかったんだ。ゴメン!」
世那は勢いよく頭を下げた。
ゴンとテーブルにおでこを打ちつける。
そのままの体勢を保つ。
しばらくして隼人の声が降ってきた。
ぶっきらぼうな冷たい声だった。
「別にいーよ。俺にも他にいるからさ」
世那はおでこをテーブルに押し当てたまま隼人が席を立つ気配を感じ取る。
「男とやりたくなったらいつでも連絡して、じゃ」
空気がさっと揺れて隼人の気配がなくなった。
店の出入り口の方で、「ありがとうございます」と聞こえた。
しばらくして世那はやっと顔を上げた。
上体を起こすとき首が軋んだ。
急におしっこに行きたくなってトイレに行くと、おでこが赤くなっていて、なんだか間抜けに見えた。
ファミレスの外に出ると夜風が世那に吹きつけた。
もう夏はすぐそこまで来ている。
そのまま家に帰る気がしなくて、少し夜の街を散歩することにした。
ぶらぶら歩いていると喉が渇いてきたのでコンビニで飲み物を買い、目の前にある公園に向かう。
広めの公園で遊具もいくつかあり、臭くて落書きらだけだがトイレもある。
街灯は明るく外からの見晴らしもいい。
ここだったら危なくないだろう。
そう思って公園内に入ると滑り台で寝そべっている人の影が見えた。
男だ。
やっぱり止めておこう。
引き返そうとして足を止めた。
滑り台へと近づく。
やっぱり。
両手を頭の後ろに回し目を閉じていたが、世那にはそれが誰だか分かった。