ストロベリームーン

 そうだすっきりはしたが重大な問題は残したままだ。

 小春という最難関を。

 相変わらず小春からは連絡はない。でも、

「変わるのよ、これから」

 そうだ、少なくとも隼人にカミングアウトできたことでわたしは変わったんだ。

 昔のように自分で敷いた人生のレールを慎重にはみ出さないようにと歩くわたしじゃもうない。

 自分で自分をがんじがらめにしていたわたし。

 わたしという人間はもっと大きいんだ。

 わたしの知らないわたしは、レールにしがみつくわたしを引き剥がし、空へと放り投げる。

 生まれ変わったわたしには、いつの間にか翼が生えていて、風をとらえて羽ばたく。

 最初は飛ぶのが下手でもいい、いつかきっと上手く飛べるようになる。

 レールなんてない大空をわたしは自分の想いだけを指針に突き進む。

 方向を間違ってもいい。

 空からは地上からは見えない景色が見えるはず。

「なんか楽しそうだね」

 大空を羽ばたいていたわたしは地上に降りたった。

 すっかり蓮のことを忘れていた。

「どうやったらそんな楽しそうになれんの」

 滑り台に体育座りする蓮は小学生の男の子みたいに見える。

「好きなものを好きって言ったの」

 声に出して小春が好きって言った。

 蓮は目を閉じ、猫が風を嗅ぐように鼻先をあげる。

「好きなものは好きかぁ」

 頭を揺らしながらブツブツ何かを口ずさみ出す。

 しだいにブツブツがはっきりとしてきて、それが歌だと分かる。

 小声だったが、

 う、上手い。

 こいつ本当に歌うんだ。

 世那は密かに感心した。

 蓮は立ち上がると世那を見てニッと笑った。

「ありがとう、なんか吹っ切れた。やっぱコンビニでバイトする」

 正社員の話は蹴るのか。

 前の世那だったら馬鹿じゃないかと呆れただろうが、今はそれはそれでいいと思えた。



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