ストロベリームーン
蓮にお堅いスーツは似合わなさそうだし、夢を追ってコンビニでバイトしている方がぴったりくる。
それにもしかすると夢は夢で終わらないかもしれないではないか。
この前まで夢を見ようともしなかった自分が言うのもなんだが、夢を見るのは比較的簡単でも、実際に追う人間は少なく、そしてそれを継続する人はごくわずかだ。
夢へとまっすぐに続く道は大空を飛んでいるがために見えない。
みんな不安になって諦め地上へと降りていく。
地上が全て悪い訳じゃない。でも、
飛んでみたいじゃないか、一生に1度ぐらい。
でもその前に蓮は璃々子さんに償わなければいけないが。
「ちゃんとバイトして璃々子さんにお金返すんだよ」
蓮は可笑しそうに鼻で笑うと、「じゃあ」とコンビニの方に歩いて行こうとして振り返った。
「これやるよ」
ポケットからハガキの束を取り出すと1枚を差し出した。
「なにこれ」
「ハガキ配りのバイト、じゃ」
世那はもらったハガキに視線を落とした。
ハガキ一面にイラストが印刷されている。
透き通るような青を背景に裸の少女の後ろ姿。
「これって」
イラストだと思ったものはよく見ると写真だった。
正確に言えば写真とイラストの合成。
ぼんやりとしたシルエットでイメージを強調している。
真ん中の少女の写真は、
あの時の世那だった。
小春の前で恥ずかしがって丸くなっている世那だった。
世那の背中には白い翼が生えていた。
羽の先は長く伸びていて、今にも羽ばたこうとしている。
ハガキを裏返す。
『Invitation for photo collection by koharu』
日付は来週になっている。
「あのドラッククイーン、小春が旅行行ってるなんて嘘じゃない。ねえ、これ」
顔を上げるとすでに蓮はコンビニの中に入って行ってしまっていた。
世那は背中にまず痒さを感じて手を回す。
羽ばたきがっている翼がそこにあるような気がした。