ストロベリームーン
月曜の朝、世那が孝哉にバイトを辞めたいと申し出る前に、隼人が辞めたことを告げられた。
「金曜の夜遅く電話がかかってきてさ、理由は言わなかったけど、とにかくすみませんって何度も謝るからこっちも駄目だって言えない感じでねぇ」
孝哉は世那に何か訊きたそうだったが、結局何も訊いてこなかった。
そう言うところはやはり孝哉は大人だ。
哀しい過去を背負い、心に傷を負ったままだがそれを含めて大人というのかも知れない。
もしかすると子どもと大人の違いは、そういったところにあるのかも知れない。
なんでもかんでも思ったことを口にし、心を全てさらけ出すのが子どもで、その反対が大人。
そういった点で、璃々子はまさしく子どもだった。
隼人がバイトを辞めたことを知ると、いの一番に世那にしつこく理由を訊いてきた。
「別れたの?ねえ、別れたんでしょ、どうして?」
この大人子ども、うるさい。
「わたしに他に好きな人ができたんです」
面倒なので世那ははっきり言った。
えっー!と璃々子は素っ頓狂な声をあげたがすぐに、
「そっかぁ」
あっさり頷いた。
「それは仕方ないよね。それでその新しい人とはもう付き合ってるの?」
世那は無言で首を横に振る。
「告白は?」
同じように首を振る。
「なんか訳ありっぽいね」
こういうところは璃々子は鋭い。
「分かった、じゃあ世那ちゃん、女になろう、わたしが世那ちゃんを女にしてあげる」
鋭いがやっぱり璃々子は頭のネジがゆるいみたいだ。
「わたしもう女ですけど」
璃々子はびしっと世那を指差した。
「まだよ。まだ世那ちゃんは完璧な女になるための洗礼を受けていない。洗礼を受けた女は強くなる。ちょっとやそっとのことでは動じないドンと構えた女になれるのよ」
「なんですか、その洗礼って」
璃々子はビール飲み干すと、ドンとカウンターに置いた。
「ブラジリアンワックスよ。それも全取り、ツルツルよ」