ストロベリームーン
「すぐに慣れるから、今ぶつぶつしてる毛穴も2時間くらいで引くから安心して」
「ありがとうございました」
世那は下半身を晒したまま璃々子に礼を言った。
「あと、ワックスのツルツルが維持できるのは1週間から10日間だから、それ以降は少しずつ毛が生えてきて、だいたい2ヶ月で元の状態に戻るの。だから女を決行するのは10日以内にね」
そう言うと璃々子は部屋を出て行った。
そろりとベッドから下りた世那は下着を身につける。
スースーして風通しがよく、なんだか心許ない。
こんな状態で女を決行できるのだろうか。
会計を済ませようとすると、これは自分からの激励のプレゼントだからと璃々子は受け取らなかった。
その代わりにではないが、世那は思い出したように言った。
本心だった。
「璃々子さんの彼氏って、歌が本当に上手ですね。今度ライブに行くときがあったらわたしも誘ってください」
1つに束ねた髪をほどこうとしていた璃々子の動きが止まる。
「蓮」
璃々子は唇を噛みしめる。
「世那ちゃん蓮の歌聞いたことあるの?」
「ちらっとですが、この前」
璃々子の顔つきが変わった。
「この前っていつ?」
「えっと、先週の金曜日です」
「どこで?」
「わたしの家の近所の公園です」
蓮は璃々子の前から姿を消していたのであった。
300万の腕時計と共に。
あいつのこと歌が上手いとか、もしかしたら成功できるかもとか思ったこと、全て撤回だ。
世那は自分も一緒に行こうかと訊いたが、璃々子は1人でいいと言う。
「お金じゃないの、わたしが蓮くんに訊きたいことはそう言うことじゃないの」
璃々子はスタッフの子を呼んだ。
「志保ちゃん、今からわたしにブラジリアンワックスやってちょうだい」
今度また店に行くね、と璃々子はさっき世那がいた部屋に入って行った。
璃々子もドンと構えた女になるんだ。
璃々子の後ろ姿はすでに気合の入った女のそれに見えたが、璃々子はもう何度もブラジリアンワックスをやっているはずだが、これは璃々子が勇気を出すための儀式なのかもしれない。
世那は璃々子が少しだけ好きになったような気がした。