ストロベリームーン
「世那ちゃんって優しい子ね。ねぇねぇ、わたしと彼の出会いを聞いてくれる?すごい運命的なのこれが」
その運命の出会いとやらを聞いて世那はさすがに顔面が引きつった。
その男は体と金の両方だ。
気づいたら風俗で働いてましたなんてことになりかねないレベルだ。
馬鹿かお前は!
世那は心の中で唾を飛ばした。
ドアベルが鳴り青年が風と一緒に入って来た。
世那がいらっしゃいませと声をかけるより早く、璃々子がタバコを挟んだ左手をあげる。
「隼人くん」
白いTシャツにデニム。
隼人という爽やかな名前にふさわしい青年は食い入るようにして世那を見た。
「あれ?俺時間まちがえました?」
なぜか皆でいっせいに壁にかかった時計を見る。
「だな」
世那の横で孝哉がうなずいた。
隼人は世那と同じアサイラムコーヒーのバイトだった。
世那より2つ年上でやはり同じ大学生だった。
孝哉は隼人と世那のスケジュールをジグソーパズルのように組み合わせた。
初日の今日は世那が早番で隼人が遅番だった。
「じゃあ俺なにか食おうかな」
璃々子の横に座りメニューにあるドライカレーを注文するとカウンターの中に入ってきて皿にてんこ盛りのご飯をよそった。
「これでお願いしまっす」
店では簡単な食事もできて全て孝哉が作る。
バイトは準備だけでいいらしい。
カレーを頬張る隼人をさりげなく観察する。
短く刈り上げた髪に日に焼けた肌。
さっきカウンターの中に入ってきた時でかいなと思ったが、璃々子の横に座っているとそうでもない。
足が長いのだ。
運動でもしているのだろうか、半袖のTシャツから伸びる腕は太く筋肉の筋が浮き立っている。
布に隠れた胸板は容易にその厚さが想像できた。