ストロベリームーン
今ちょうど席を外しているのかもしれない。
意識的に特にパート1から隠れるようにして世那は写真を見て回った。
小耳に挟む人々の会話から知り合いが多いようだったし、写真展をやっているとは知らずにバーだと思って入って来た客も多いようだった。
世那の写真は1枚だけではなかった。
風景写真や物撮り写真に混じって世那の写真はあった。
写真だけのものもあったしイラストと組み合わせたもの、または写真と写真を重ねたようなものもあった。
綺麗だと思うものもあれば、世那にはよく分からないものもあった。
小春の目はこんな世界を見ているのかと思うと、自分が小春の中にいるように感じる。
不思議な感覚だった。
小春が撮りたいと言った人物写真は世那だけだった。
小春の目を通して見る世那は世那が鏡で見る自分とは全く違った。
「来てくれたんだ」
心臓がどきりと脈打つ。
いつの間にか横に小春が立っていた。
「小春」
「ゆっくりしてってね」
小春の顔は穏やかで声も優しかった。
が、小春と世那との間に見えない厚い壁があり、向けられた背中は固く世那を拒絶していた。
伸ばそうとした手をピシャリと叩かれたように世那の気持ちがひるむ。
パンツの中で風が吹いた。
そうだ、わたしは洗礼を受けたんだ。
わたしはドンと構えた女になったのだ。
「小春」
小春が振り返る。
「わたし隼人とは別れたから」
世那と小春の間にいる客の何人かが世那を見た。
小春は世那に歩み寄ると肩にそっと手をかけて囁いた。
「ちょっと別のところで話しましょうか」
小春は世那を店の奥にある小部屋に連れて行った。
事務所兼休憩室として使っている窓のない狭い部屋で、綺麗に整理整頓されているが物が多く圧迫感があった。
まるで大きなクローゼットに入ったようだ。