ストロベリームーン
部屋にある全ての椅子の上には何かしら置かれていて、デスクの上にもダンボール箱が積まれている。
イベントをやっている今日は特に物が多いのかも知れない。
小春は椅子の荷物をどかすと世那を座らせ、自分は物がひしめき合ったデスクに寄りかかった。
「隼人くんと別れたって、なんでそんなことわざわざわたしに報告するの?」
それまで終始無言だった小春が言った。
「だって」
世那はまっすぐに小春を見ることができず、デスクにある鉛筆立てに視線を置く。
何に使うのか倒れそうなくらい大量のペンが付き刺さっている。
その横に小春の手が置かれている。短く切りそろえられた指のあの手だ。
「だってなに?」
世那は唇を噛んだ。
だって小春が怒ったからではないか。
世那が隼人と付き合い出したのを知って小春が世那を無視するからではないか。
「小春が」
「わたしが?」
「小春が」
そうだ、小春が、小春が、小春が…。
いや。違う。
小春じゃないんだ。
わたしなんだ。
わたしがどうしたいかなのだ。
世那は顔をあげた。
「わたし小春が好き」
言った。
そうだ。
小春がどうだからじゃない。
小春がどうであれ、わたしは小春が好きなんだ。
「だから隼人と別れた。これ以上自分の気持ちに嘘つけないと思った。だから」
小春は黙って世那を見つめている。
だから、だから?
次になんて言ったらいい?
頭がぐるぐるする。
だから『わたしと付き合ってください』?男女だったら『結婚してください』とか?いや違うだろ。
頭が真っ白になる。
何も考えられなくなると言葉がすっと出てきた。
「だから小春と一緒にいたい」
鉛筆立てが音を立てて落ちた。
床に転がるペンを目で追う世那の両頬が包まれる。
目の前に小春がいた。