ストロベリームーン

 大きく吸い込んだ空気に小春の匂いがするほどの距離だった。

 小春とのキスはびっくりするほどふんわりと柔らかかった。

 そして猫祭りコーヒーのように甘かった。

 両腕を小春に回すとその頼りなさに一瞬驚く。

 ああ、自分と同じ女の人と抱き合うってこんななんだ。

 小春との初めてのキスはムードの欠けらもない雑然とした部屋を世界で1番ロマンティックな場所に変えた。

 一生この部屋で暮らしてもいいと世那が思ったとき、小春の体が離れた。

 小春はただ黙って世那を見つめている。

 言葉なんかなくても伝わる。

 小春の好きがいっぱい。

 部屋の外で小春を呼ぶ声がした。

 誰かが小春を探しているらしい。

 小春はもう1度軽く世那にキスをすると、扉の方へ体を向け、片方の手を世那に伸ばした。

 その手を世那は握る。

 小春と世那はクローゼットのような狭い部屋から2人一緒に外に出た。


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