ストロベリームーン
腕時計の謎
璃々子はコンビニの前に立っていた。
世那から教えてもらったのはいいが、今晩このコンビニで蓮が働いているかどうかは分からない。
それでも璃々子は迷うことなく突き進んだ。
たりらりらり〜ん、らりらんらん。
璃々子の気迫を削ぐような音が鳴る。
まずレジの方を見る。
白髪混じりの男性店員と目が合った。
そんなつもりはないが、睨みつけてしまったのだろうか、店員の男は一瞬驚いたような顔をしすぐに璃々子から目を逸らした。
ちらほらいる店内の客の中からコンビニの制服を探す。
おにぎりを補充している後ろ姿に目を見張るが、丸っこい小さな背中ですぐに蓮でないことが分かる。
店内にいる店員はレジとおにぎりのところにいる2人だけだった。
璃々子は手ぶらでレジに向かった。
さっきの店員は璃々子がやってくるのが分かっているのに、わざと璃々子の方は見ずにこわばった横顔を見せている。
「あの」
璃々子が声をかけると、店員はたった今それに気づいたように顔を向けた。
「いらっしゃいませ」
「あの、ここで最近バイトを始めた神崎蓮という人がいると思うんですが」
そこまで言うと、璃々子は店員の返事を待った。
男は首をかしげる。
「はぁ、すみません。わたしも先週入ったばっかりで」
最近はコンビニやファストフード店、ファミレスなどで働く中高年が目立つ。
それが男性だったりするとその人の経歴を思わず想像して勝手に同情してしまったりもするが、この時ばかりは璃々子は、
この役立たずが!
と心の中で毒づいた。
「誰か他に分かる人います?」
璃々子は何気におにぎりコーナーを振り返る。
「さぁ」
男はもう1人の店員に訊いてくれる様子もなく、首をかしげるだけだった。
そうしているうちにおにぎりの店員は店の裏へとまわってしまった。