ストロベリームーン
「あれ、孝哉さんは?もしかしてまた風邪?」
小春は店内を見回す。
「ううん、今ちょっと外に出てるだけ」
世那は冷蔵庫から卵を取り出す。
小春は手に持っていた雑誌をカウンターの上に置いた。
「小春ちゃんこんなの読むんだ」
璃々子は璃々子が絶対に読まないようなビジネス雑誌を手に取る。
「ああ、これ仕事です。自分の書いた記事が載ってるんで」
「えー、うそうそ、小春ちゃんの?見せて見せて」
「と言っても、わたしの書いた記事は『できる男の昼ごはん』っていう飲食店のコラムなんですけどね」
小春がページをめくる横で璃々子は雑誌を覗き込んでいる。
「あ!ちょっと待って!」
ページの隙間に手を差し込む。
小春からもぎ取るように雑誌を自分の方にたぐり寄せる。
「リョウだ」
ページの4分の1程の大きさの写真に写っていたのは、自信満々な笑みを浮かべたリョウだった。
どうやらリョウは起業したようでそれについての紹介だった。
が、そんな記事はどうでもいい。
璃々子は写真のリョウの左腕に注目した。
リョウがはめているのは、璃々子の寝室からなくなった腕時計だった。
サイドテーブルの引き出しから蓮が盗んだはずの腕時計だった。
「なんでリョウが」
リョウの物なのだからリョウがしていてもおかしくはないのだが、でも。
「この取材っていつのもの?」
「ええっと、多分先月だと思いますよ」
新しく同じものを買ったのか?いや、このバージョンはもう市場に出ていないはずだ。
ネットのオークションか何かで同じものを見つけたのだろうか?
「知り合いですか?」
小春が訊いてくる。
世那がカウンターから身を乗り出して雑誌を覗き込む。
「元カレ。一瞬だけ付き合った」
「え〜意外」
世那は雑誌を手に取ると小声で記事を読み始めた。