最後の夏、君の太陽に。
店を出ると、少し涼しい風が吹いていた。
あたりはすっかり暗くなって、街灯が遠くまでずっと続いている。

「家まで送るよ」

気がつくと、そう言っていた。

「いいよ、一人で帰れるもん」
「もうちょっと一緒にいたい」

俺の言葉に、彼女は照れ臭そうに俯いた。
そして、コクっと小さく頷く。
彼女と並んで歩くと、街の夜景は余計に煌めいて見えた。
小説や歌でこんな感じの事が書いてあると、前までなら“何が?”みたいに思っていた。けれど、今ならその気持ちがわかる気がした。

「ねえ、手、繋がない?」

いつもなら言えなさそうなこの言葉も、すっと躊躇いもなく言えた。
考えてみれば、彼女に告白された時、舞い上がって抱きしめてしまったりしたのに、まともに手を繋いだ事はない。
何か、踏むステップを間違えてしまったかのように。

「いいよ、はい」

莉央ちゃんは右手を差し出して来た。
俺はその手を左手で握った。
自分のものではない、温もりがした。

「ねえ、莉央ちゃん」
「ん?」

呼びかけると、彼女はこちらを向いて笑ってくれる。

「……俺と、付き合ってください」
「私さ、峻輝くんが思ってるほど、いい子じゃないよ」
「いいよ」
「今までみたいに、優しくできなくなるかもよ?」
「いいよ」
「いいの?」
「だって、莉央ちゃんが好きだから」
「……そっか」

そこで止めて、彼女は、

「お願いします」

今までで一番の、とびきりの笑顔を見せてくれた。
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