その瞳は、嘘をつけない。
「転勤が決まった。」

と、部屋に来るなり突然告げられたのは、大掃除をしてから丁度1週間が経ってからだった。

私はキッチンで、使い終わった調理道具を洗っていることろだった。

あまりにさりげなく、さらっと言われるので
一瞬理解が追い付かなかったけど。

「転勤て・・・・どこに?」

手を拭きながら、秀くんの元へ向かう。
秀くんが告げた街の名前は、ここから車で2時間くらいの、大都市。

転勤があるお仕事だって、分かってたはずなのに。
どうしてその可能性を考えていなかったんだろう、私。

じゃあ、あの大掃除は、退去が決まっていたから?
カフェに連れて行ってくれたのは、この街を離れるから?
全部わかってて、それで私には黙っていたってこと?

呆然としている私を、ソファーに座るよう促してくれた。
タオルを持ったままだけど、気にならない。

「いつから、決まってたの?」
声が震えてしまう。

「正式な内示は、今日。
もう4年もいるから、そろそろだなとは思っていたけど。」

転勤って、もっともっと前から決まるものだと思っていたけど
そうでもないらしい。
私の父には転勤がなかったから、そういう事情は全然わからない。
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