その瞳は、嘘をつけない。
現実は、そう簡単には進まない。

仕事だってすぐには辞められないし、
このアパートだって、退去1か月前までに連絡しなきゃいけない。
同じタイミングで、秀くんの転勤先に着いていくなんてどう考えても無理だ。
じゃあ、いつならいいんだろう?
新しい街で、仕事見つかるかな。

「おいお前・・・意味分かってるか?」
「へ?」

隣から、秀くんのため息が聞こえてきた。

「連れていきたいと言ったのは、ただお前も引っ越して欲しいという意味じゃない。」

思わず外してしまった視線。
秀くんが、私の顎を持ち上げて、
視線を合わせる。

「実加、結婚してほしい、俺と。」

息が止まるかと思った。
でも心臓はしっかりと、
煩いくらいにトクトクとなっている。

はい、って
返事をしなきゃいけないのに。
私の体は声の出し方を忘れてしまったようで
全然役に立たない。

そのうちに、秀くんが笑い出した。

「返事はいいよ。
お前の目を目を見れば、わかる。」



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