その瞳は、嘘をつけない。
「寝ていたのか?」

窓からうっすらと入り込む街灯の明るさで、秀くんがふっと笑うのが、微かに見えた。

「そう、仕事から帰ってきてそのまま…」

気づいたら、秀くんに抱きしめられていた。

「会いたかった。」
「私も、会いたかった。」

秀くんの胸に顔を埋める。
煙草、整髪料、そして秀くんの匂い。
久しぶりに会う秀くん。
このまま溶けてしまいたい。


明るくなった部屋で、ローテーブルの上にはマグカップとウイスキーのグラス。

「珍しいな。お前が風呂にも入らずにこんなとこで寝てるとは。」
「最近インフルエンザが流行ってるでしょう。休む人が多くて、代わりに出勤してたらあっという間に12連勤。明日は久しぶりに休みなの。」
「そうか。」
「秀くん明日は?泊まっていくんでしょう?」
「昼前には、出る。」
「そうなんだ。」

ここで沈黙。
珍しいな、なんて言われるほど私の事知ってるの?とか、
疲れてる私に労いの言葉は?とか、
言いたい事は頭に浮かんでくるけど、ぐっと堪える。

カフェ店員の私の疲れなんて、敏腕刑事の秀くんのとは比べ物にならない。
それに、素っ気ないのは彼の性分。感情をあらわにして、面倒な女だとも思われたくない。

「風呂、溜めてくるぞ。」
立ち上がりながら、秀くんが言った。
ぼうっとしていてすぐに反応出来なかった私の顔を覗き込みながら、彼が続けた。
「疲れてるんだろ?さっさと入って寝ろ。」
「あ、うん。ありがとう」
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