その瞳は、嘘をつけない。
人の家という遠慮や躊躇いは微塵もなく、淡々とバスルームに向かってゆく。
水音が聞こえてきて、リビングに戻ってくるとまたウイスキーを手に取る。
彼が動く音はしない。
音を立てないようにと意識している訳ではなく、自然と身に付いているんだろうな。
やっぱり仕事柄というか、普通の人とは違うんだなと思うと、自分のことが本当に何の取柄もない凡人だと思い知らされる。
全く違う世界にいるはずなのに、どうして彼は私のところにいるんだろう…。

なんて、だめだめ。
疲れていると、ネガティブ思考になってしまう悪い癖。
フラットに。平常心。

「そろそろだな。」
秀くんはそう言って立ち上がり、徐ろにYシャツを脱ぎ始めた。
「え?」
予期していなかった彼の行動と、自分の思考に囚われていたことが重なり間の抜けた声をだしてしまった。

「入るだろ?風呂。」
「い、一緒に!?」
「嫌か?」
きょとん、という音が聞こえてきそうなくらいあっさりさに、でも有無を言わせない強引さを含める。
質問ではなく、ただ私の反応を楽しんでいる。
反則だよ、本当に。

男に入れ込みすぎないように。
盲目的にならないように。
相手の想いよりも自分の思いが強くなってしまったら負け。

秀くんと一緒にいる間も、そう自分に言い聞かせて慎重に過ごしているはずなのに。

この、優しさと強引さ。
何を考えているのかわからないミステリアスさと、はっきりとした意識表示。
とても一口には表せない彼の魅力に、すっかり虜になっている私。
どうにかなってしまいそう。
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