もう一度、愛してくれないか

「うっわーっ!専務、これ、めっちゃまずいですやんっ!?」

いつの間にか、背後に伊東がいた。

「……プライベートなことだ。君たちには関係ない」

おれはきっぱり言った。

すると、スリートップがまるで猫のように突然毛を逆立てる気配がした。

「うちらには、あさひ証券大阪エリアの女子社員を守る義務があるんです」

と、興戸。

「専務には東京に奥様がいてはりますよね?
この大阪エリアで、不倫で泣く子ぉを出しとうないのです」

と、七条。

「せやけど、相手の女性がだれなのか、朝からうちらのそれぞれの組の(もん)を総動員させて全力であたってますけど、該当する者が見つからへんのです」

と、鳴尾。

スリートップのそれぞれの学閥の女子社員たちが「組員」となって「組長」のために情報を挙げているってわけか。彼女たちは大阪エリアの女子社員の中では多数派(マジョリティ)だ。

……おい、本日の我が社の業務はどうなってんだ?

少数派(マイノリティ)・豊川はおろおろするばかりだ。
伊東はにやにやしたいのを(こら)えている様子だ。

「君たちに弁明する必要はないと思うが……」

おれはため息を一つ吐いた。

「……それでは、我が大阪エリアの大多数の女子社員たちの、本日からの業務の遂行を妨げることになるのだな?」

スリートップは同時に肯いた。


「伊東、悪いが、これから始まる会議を少し遅らせてくれ……こちらが片付き次第、すぐに行く」

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