もう一度、愛してくれないか
「……専務、『スリートップ』は、なんで秘書室なんっすか?」
伊東が怪訝そうな顔で訊く。
「興戸君は、京都に本社を持つ下着メーカーの重役の娘だ」
「えっ、やっぱお嬢さまなんやー」
テーブルに突っ伏していた豊川がむくっ、と起き上がる。
「七条君は、京都と花札を発祥としたゲーム会社の重役の娘だ」
なるほどなー、と伊東が肯く。
「鳴尾君は……神戸の……金融会社の……社長の娘だ」
急におれが言い淀んだので、二人とも、きょとんとした顔になる。
「その母体は……阪神・淡路の震災の時に炊き出しをしたり、ハロウィンの時には地域の子どもたちのためにお菓子を配ったりと、ごくたまに『社会貢献』もしている」
「へぇ〜、石◯軍団みたいですね〜!」
豊川が、無邪気な笑顔で感心する。
「……当たらずとも遠からず、かな」
おれがそう言って、にやり、と笑うと、伊東がイケメンな笑顔を痙攣らせていた。
これらのことは同じ学閥の者には周知の事実だ。だからこそ、入社年度を問わず慕われて君臨しているのだ。
確かに、いずれの「家」もあさひ証券にとって「御得意様」であることには変わりがないが、それより三人一緒にしておいた方が、いざトラブルが持ち込まれたときに「手打ち」しやすいだろうと思って、去年から目の届く「秘書室」に置いているのだ。