もう一度、愛してくれないか

姉に連れられて行ったのは、宝塚歌劇団の東京公演だった。
(紗香は、その時観劇した東京宝塚劇場の月組公演「エリザベート〜愛と死の輪舞(ロンド)〜」で主役のトートを演じた男役トップスター瀬奈じ◯んもさることながら、フランツ・ヨーゼフを演じた霧矢◯夢がいかにすばらしかったかを、それからたっぷり十五分もの時間を費やして語った)

すっかり宝塚歌劇団にハマってしまった紗香は、そのあとネットでいろいろ情報を「収集」しだした。誘った方の姉は、まさか妹がそこまでになるとは思わなくてびっくりしているのだとか。

……今度、清香ちゃんに会ったら、
「紗香に『良い趣味』を紹介してくれてありがとう」って、イヤミの一つでも言ってやんないとな。

だが、たぶん、あいつのことだから、
「あらー、いいのよ。真也さん、お礼なんてぇ」
おほほほ…と邪気なく笑いながら言いそうだ。
姉妹揃って、ど天然だからな。

ともかく、そういう「情報収集」の結果、紗香はタカラヅカ好きのマダムたちが集うサイトにたどり着いた。さらに、ネット上で交流を深めていく中で、偶然知り合ったのが伊東の母親だった。

紗香はハンドルネームを学生時代の呼び名から「サーヤ」にしたが、伊東の母親は応援している新進のタカラジェンヌ「遼河 は◯ひ」から漢字を変えて「凌牙」にしたらしい。本名は伊東 照代(てるよ)で、ちなみにアラ還だそうだ。

彼女たちは、互いの夫と息子が同じ会社にいるだけではなく、専務とその専属秘書として勤務しているのがわかり、一気に親近感が増した。

「ねぇ、すっごい偶然だと思わない?
ううん、世の中に偶然なんてないのよ、これはもう『必然』よ」

……おい、妙な信仰宗教に入信したんじゃないだろうな⁉︎

「見ず知らずのネット上の人間に、むやみやたらに個人情報を(さら)すんじゃない。
今回はたまたま本当につながりのある人だったからよかったものの、いつもそうとは限らないんだからな」

おれは腕組みをして、強く言った。
けれども、いつもなら素直に「はーい」と子どものように応える紗香が、今日はぷいっ、と横を向く。

……なんだ、反抗期か?

「凌牙」が歳下のホストではなく、正真正銘あのオバサンだとわかって(姿を見たことは皆無だが、おれの中ではすっかり藤◯直美だ)ホッとしたおれに余裕が甦ってきた。

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