もう一度、愛してくれないか
「あたしの誕生日も帰ってこなかったし、ゴールデンウィークも一泊しかしなかったし」
「今年は、年度末が忙しくて帰れないって言っただろ?ゴールデンウィークだって、接待ゴルフ漬けだ、って」
わかってくれているものだとばかり、思っていたが。
「でも……凌牙さんが『それは怪しい』って。
『そう言って、相手のオンナに会ってるのかも』って」
……あのババァ、勝手になにを言ってやがるっ。
「だから『突然行って、びっくりさせてやればいい』って。『もしかしたら、大阪のマンションに相手のオンナの形跡があるかも』って」
……ざけんなっ!
んなもん、あるわけねえだろがっ⁉︎
「今までも、あなたの単身赴任先のマンションへ行くの、ずっと怖かった。赴任先で好きな人ができて、一緒に暮らしてるみたいになってたらどうしようって、いつもいつも不安だった。
……ほんとはあたし、先週の水曜日に大阪に来てたの。でも、怖くて入れなかったの」
バカだな……おれのマンションということは、おまえのマンションでもあるのにさ。
「でも、ちょうどその時、凌牙さんがタイミングよくご主人とケンカして家を飛び出てきたから、『そうだ、京都に行こう』って思って。
八坂神社近くの◯◯屋に電話したら『どうぞ、おこしやす』って運良く予約できたんで、二人でそこに泊まったのよ。
……ひさしぶりの京懐石、すっごく美味しかったわ」
紗香の実家の朝比奈一族が懇意にしている旅館である。
くそっ、あの京懐石は宿泊客でないと食えねえんだ。しかも、七部屋しかない客室全部に露天風呂が付いてんだよな、あの旅館。
……紗香、今度はババァとじゃなく、おれと行くんだからな⁉︎