もう一度、愛してくれないか

こうなると紗香が手強くなるのは、伊達に二十五年も結婚生活を送ってるわけじゃないから、百も承知の二百も合点だ。

……攻め方を変えよう。

そもそも、おれは『頑固な亭主をどうやって説得できたんだ?』と訊いたはずなのに、なぜか「おれが会社の子と浮気した」って話になったんだったよな?そして、その話は「伊東」から聞いたと言っていた。

「……なぁ、紗香。
なんで伊東は、おれが会社の子と浮気してる、なんて言ったのかな?」

気を鎮めて、穏やかに尋ねてみる。

「伊東くんが口を滑らせたの。
『オカン、専務と違って、浮気とか不倫とかじゃないからいいじゃないか』って」

「はぁ⁉︎ あいつ、なに言ってやがんだっ⁉︎
何の根拠があって、そんなこと言うんだっ⁉︎」

おれは思わず声を荒げた。

「会社の秘書課の女の子たちが『証拠写真』を持ってるそうじゃないの?」

おれの背筋を一気に氷点下四十度でのバナナみたいにカチカチに凍らせるほどの声で、紗香が告げた。

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