もう一度、愛してくれないか
「……ねぇ、あなた、今日は何の日か覚えてる?」
上目遣いで、紗香が訊いてきた。
「もちろん、覚えてるさ。結婚記念日だろ?
それも、二十五回目の……『銀婚式』だ」
すると「覚えてたんだ」と、大きな瞳がますます大きくなった。
……まぁ、気がついたのは今週だけどな。
そんな紗香が知らなくていいことは、迷わずラララ星の彼方に旅立つがいい。
「だから、ホテルのディナーを予約してある。
……そのあとは、スイートも取ってあるからな」
紗香の耳元で囁く。びくびくっ、となった。
おれのよく響く低い声に、紗香は弱い。
「……うん、ありがと。うれしいな」
そうつぶやいた紗香のくちびるに、ちゅっ、とキスをする。
「昨夜、帰ってこないから、どうなることかと思ったんだぜ?」
もう一度、今度は深く口づけようと顔を寄せると「ストップ!」と制された。
おれが怪訝な顔になると「伸びかけのヒゲが痛い」と顔を顰められた。
おれは顎を撫でた。確かにざらり、とする。
「わかった。速攻で、シャワーを浴びてくる。
……おまえも、一緒に入るか?」
紗香の頬をするり、と撫でる。
「む…無理無理無理無理…っ!
だって真也さん、ヘンな格好させるんだもんっ」
「あ、後ろを向けっていうヤツか?そんなのベッドではいつも普通にヤってるじゃねえか。
壁に手をつけろ、って言ったのは、身長差もあるし、床が濡れてて滑ったら危ないから、安定させるためだ。でないと、おれだってヤりづらいし、思う存分動けないからな。
だが、おまえがだんだん、ずりずりと下がってきて、尻を突き出す形になるのは、おれは知らねえぞ。
……鏡に映ったお互いの姿が見えて、おまえもすんげぇ昂奮してたじゃねえかよ」
マジであのときの紗香は、超絶にエロかった。
すると、紗香の顔が一瞬にして、真っ赤っかに染まった。
「ち…ちょっとっ!
あ…朝から、なに言ってんのよっ!?」
バシッと思いっきり胸を叩かれて、おれは「痛てっ」と思わずごちた。
……今さら、なにを照れてやがる。
たかが立ち後背位くらいで。
どうやら、今まで甘やかし過ぎたようだな。
これから、四十八手をコンプリートしようとしているのに。
江戸時代に確立された、日本が誇る伝統的な体位の数々だぞ。おまえは先人の叡智の結集を冒涜する気か?