もう一度、愛してくれないか
♤Chapter 19♤
その日の昼下がり。
あれからたっぷり睡眠を取った紗香であったが、昨夜の思いがけぬ「オール」で肌の調子が悪いからメンテナンスしたいと言う。
なので、ディナーの前にホテルのエステとヘアサロンに予約を入れた。
紗香は、黒地に大胆な蘭の花がプリントされた、レオナールの膝丈のワンピースに着替えて、玄関に出てきた。
「へぇ……そういう華やかなのも似合うな。おまえ、そんな服、持ってたっけ?」
おれの方は、濃紺の生地にさりげなくダークグレーとブルーのレールストライプが入った、ポール・スチュアートのスリーピースだ。サマーウールのため、軽くて動きやすい。
この前、阪急のメンズ館で「オーダーは数週間かかるから、とりあえずすぐ着られるように一着買っときましょ」と紗香が選んでくれたものだが、既製なのに驚くほど身体にフィットしている。
「このワンピ、前に銀座の松波屋へお出かけしたときに、おかあさまがあたしとおねえちゃまに買ってくれたのよ……娘たちが何歳になってもお揃いにしたいのね」
紗香が肩を竦めて答えた。
彼女がピンクの花びらで、姉がブルーらしい。
以前、彼女たちの実家で見せてもらったアルバムに、色違いの同じ服で微笑む幼い彼女たちが何枚も写っていたのを思い出した。
「タカラヅカの観劇のときに偶然カブッちゃったんだけど、なんだか姉妹の漫才師みたいだったわ。でも、ここ大阪なら、きっと大丈夫ね」
マノロ・ブラニクの肌なじみのよいベージュのBBに足を滑り込ませながら、ふふっ、と笑う。
往年の映画女優、ブリジット・バルドーを冠したシンプルなそのハイヒールは、約十センチの高さにもかかわらず「まるで吸い付くような履き心地なの」と紗香のお気に入りで、色違いで何足も揃えている。
おれはヒールを履き終えた紗香に、黒のバッグを渡した。モノグラム サテンでスペシャルオーダーしたアルマBBだ。
これらは、今までの誕生日やクリスマスの際にプレゼントしたものだ。