もう一度、愛してくれないか
♤Last Chapter♤
「別にわたしと住むからって、あなたに今までの生活を変えてほしいわけじゃないの。こんなに長い間、別に住んでたんですもの。真也さんには真也さんの生活のリズムやペースがあることもわかってる」
紗香は打って変わって、自信なさげに縋るような眼になった。
「大地のことはもういいでしょ?
この秋からはアメリカに留学して、二年間は帰ってこないだろうし。そりゃあ、あさひ証券に入ったからにはゆくゆくは会社を担うポストに就いてもらいたいけど……でも、あたしはもう御役御免だわ」
息子は経営学修士を取得するために、会社からコロンビア大学のビジネススクールに留学することが決まっていた。
だが、そうはいっても、友人知人のいない(と思っていた)大阪に紗香が来るとは考えてもみなかった。一緒に暮らせるようになるのは、この会社で大阪支社長も兼ねる専務取締役でいる間は無理だと思い込んでいた。
「この一週間、あなたと同じ食事をして、あなたと同じテレビを観て笑って、あなたと同じベッドで眠って……」
いつの間にか、涙声になっていた。
「朝、目覚めたときには隣にあなたがいて……」
おれは腕の中に紗香を引き寄せた。
「あたし……もう、東京に帰りたくない。
あなたと離れたくない……大阪で一緒にいたい」
紗香がぎゅーっと、おれにしがみつく。