もう一度、愛してくれないか
……いや、そんなことはどうだっていい。
それよりも、今の状況だ。
……なぜ、東京にいるはずの妻が、いきなり大阪にいるんだ?
こっちに来るなんて連絡、一切なかった。
そもそも、妻はおれの単身赴任先のマンションには来ないのだ。
さすがに、カーテンを買ったり家電や家具を整えたりするまでは、どんなに遠い赴任地でも何回か通って甲斐甲斐しくレイアウトもコーディネイトもしてくれるのだが、いざ住み始めるとまったく訪れなくなる。
まぁ、おれの母校でもある私立の中高一貫校に入れた息子が育ち盛りで、手がかかっていただろうしな。
思春期の面倒くさい時期もあっただろうに、妻は特に不平不満も言わなかった。だから、おれはそれぞれの赴任地でめいっぱい仕事に打ち込むことができた。
(口に出して言うのは、こっ恥ずかしいから勘弁してほしいが)妻には感謝している。
結局、一人息子を今春このあさひ証券に入社させるまでに育て上げたのは妻一人の力である。