もう一度、愛してくれないか
大学時代、あれだけ女をとっかえひっかえしていたおれが、紗香なしではいられなくなった。
……紗香と結婚したい。
人生をともに歩んでもらいたいのは紗香だけだ、と思うようになった。
それは、清香とつき合い始めた水島も、同様だった。
だが、彼女たちは社長令嬢だ。
この頃、やんごとなき血をひく母親の美貌と佇まいを受け継いだ美人姉妹には、政略結婚の見合い話が山のように来ていたそうだ。
姉である清香の方が待ったなし、である。
いつも余裕綽々の水島が切羽詰まった顔で、おれに相談してきたので『社長に「お嬢さんをください」をやれ』とけしかけると、そのとおり実行した。
そして、社長から「朝比奈」の姓は継がなくてもいいが実質的な「婿養子」になる覚悟はあるか、と詰問された水島は長男であるにもかかわらず『もちろんですっ!』と即答し、結婚を承諾された。(後日、水島の実家側は唖然としたらしいが)
水島の総務での働きぶりに将来性が見込まれたのだ。実際、現在の彼はあさひ証券の社長である。
次はおれの番だ。
自信はあった。それに三兄弟の次男だし。
もともと悪くなかったおれの営業成績だったが、紗香と結婚できる力を身につけなければと思ってしゃかりきに取り組むうちに、群を抜いて良くなり始め、他の追随を許さないほどになっていた。
全国の本支店合わせた中で、ぶっちぎりのトップセールスだった。
おれは二十代で、本店営業部の営業課長になっていた。