もう一度、愛してくれないか
♤Chapter 5♤
「参ったっすよー」
翌朝出社したら「専務、昨夜はごちそうさまでした」と頭を下げた後、伊東はそう言って深ーいため息を吐いた。
「昨日、マンションに帰ったら、うちのおふくろから電話がかかってきたんっすけどね」
伊東は北摂では「ご近所さんは猿か?猪か?」と揶揄される自然豊かな能◯出身のため、江坂のマンションで一人暮らしをしていた。
といっても、大学時代から付き合っている彼女と半同棲状態らしいが。
ちなみに、その彼女は某航空会社の地上職で伊丹に勤務しているそうだ。
「突然、おふくろが『もうあんなおとうさんとは、やっていかれへん。ガマンも限界や、離婚する!』って言い出しよったんっすよ。
もう実家を出て、結婚した姉がダンナと住む、宝塚のマンションに来てるらしいんですわ」
伊東がさらっとしたダークブラウンの前髪をかき上げた。
「うわぁーっ、それ『熟年離婚』ってヤツやないですかぁー」
ちょうどその時、タイミング良く(悪く?)総務から預かった郵便物を届けに、専務室に入ってきた豊川が叫んだ。
「……あ、専務。昨夜はごちそうさまでしたっ。
めっちゃ美味しかったですっ」