もう一度、愛してくれないか
「それで、親父さんはどうしてるんだ?
自分の妻を迎えに行かないのか?」
「それが、オヤジの方もヘソを曲げて『勝手にしろ!』って言うてるんですわ」
伊東はコメカミを押さえた。
「お父さん、能◯の方ですか?」
同じ北摂である◯木市から通勤する豊川が訊く。彼女は実家住まいだ。
「いや、泉◯◯」
もともとは、大阪南部の泉州の出身で、今の大阪北部の能◯の家は結婚を機に購入したそうだ。
「そりゃあ、お父さん、頑固やろなぁ。
だんじり祭りでは燃えはるんでしょ?」
「おう、毎年仕事休んで駆けつけてるわ」
泉州の男たちは「NO だんじり NO LIFE」である。ヤンキー体質で社会に反抗的かと思えば、妙に保守的で、未だに昔ながらの「女は男について来んかいっ!」というのがカッコいいと思っている。だが、妻や彼女の前ではだんじりのとき以外にその「男気」を発揮できていない実はヘタレだ、と豊川が言った。
えらく具体的かつ辛辣だな、と思ったら、その豊川 結衣の北浜勤務の彼氏が「泉州男」だったのだ。
「……でも。
だんじりのときのめっちゃカッコいい姿を見たら、絶対に別れられへんのですけどねぇ」
なんだ……結局は、惚気か。