もう一度、愛してくれないか
「お母さんも泉州ですか?」
「いや、河内◯◯。実家は代々ぶどう園をやってんねん。ワイナリーもあるし。
……あっ、専務、今度自家製ワイン持って来ますわ。最近の河内ワイン、美味しなってきたんっすよ」
対して母親の方は大阪東部の河内出身だそうだ。
豊川曰く「『♪ 大阪で生まれた女』って歌あるでしょ?あと、演歌に出てくるような『大阪の女』。そのイメージって『河内女』なんですよねぇ」
要するに、耐え忍んで臨界点を超えたら、一見うじうじ悩んでいるように見えていても実はとっくに見限ってるため、もうすでに相手を「過去の男」として昔を振り返ることができる女、ということか?
一口に「大阪」と言っても、昔は北部の「摂津国」、南部の「和泉国」、東部の「河内国」の三つに分かれていて、今でも気質が違うのだそうだ。
ラガーマン伊東 大輔は、血気盛んな「だんじり祭り」の和泉国とラグビーの甲子園である「花園」を戴く河内国の血を受け継ぎ、摂津国で「シュッとした」爽やかイケメンに育った、純正ハイブリッド大阪人だった。
おれのような東京人にとっては「熱いが熱すぎない」大阪人はレッドリストだ。
伊東は、大阪経営企画本部に異動願いを出しているが、代わりの専属秘書が入るまで、おれの手で握り潰しておこう。