もう一度、愛してくれないか

「……うん、そうなの……昨日はダメだったの」

リビングの入り口に背を向けて、ケータイでだれかと通話しているようだ。機械オンチの妻は未だにガラケーだ。

「でもね……今日は、がんばって話をしてみるつもり……うん、そう……」

話に夢中で、おれがリビングに入ってきたのに気づかないらしい。昔から、一つのことに囚われたら、他のことはおざなりになるタイプだ。

……だからといって、インターフォンの音にも気づかないのかよ?

ずいぶん親しげな口調だから、息子とでも話しているのだろう。ヤツは四月から三ヶ月間、新人研修でみっちりとしごかれているはずだ。

母親に家を空けられたら、たちまちメシや洗濯などに困っているのだろう。早く帰れ、という催促の電話かもしれない。

……おまえのじゃなく、おれのカミさんだぞ。

今年の総務本部の新人研修担当者はだれだったかな?

……手加減なしで思いっきりシゴいてもらうように、言っておかなければ。


「だ…だからね……離婚のことは……」

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